東京地方裁判所 平成8年(タ)376号 判決 1999年9月03日
原告
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
今井三義
被告
甲野春子
右訴訟代理人弁護士
鈴木武志
同
根本伯眞
同
小原恒之
主文
一 原告と被告を離婚する。
二 原告に対し、別紙財産目録一及び三記載の不動産、同目録四の2記載のゴルフ会員権並びに同目録六の1記載の預金をそれぞれ分与する。
三 被告に対し、別紙財産目録二記載の不動産、同目録四の1記載のゴルフ会員権、同目録五記載の各生命保険解約返戻金並びに同目録六の2及び3記載の預金をそれぞれ分与する。
四 被告は、原告に対し、別紙財産目録一記載の不動産の共有持分につき、第二項の財産分与を原因とする所有権(共有持分権)移転登記手続をせよ。
五 原告は、被告に対し、別紙財産目録二記載の不動産の共有持分につき、第三項の財産分与を原因とする所有権(共有持分権)移転登記手続をせよ。
六 原告は、被告に対し、金五八七万九〇〇〇円を支払え。
七 原告は、被告に対する前項の支払を担保するために、被告に対し、別紙財産目録一記載の不動産に抵当権を設定し、抵当権設定登記手続をせよ。右登記費用は原告と被告の平等負担とする。
八 原告と被告の間において、別紙債務目録一、二記載の債務を原告に負担させる。
九 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告と被告を離婚する。
二 被告は原告に対し、三七万一五五八円を支払え。
第二 当裁判所の認定した事実等
本件は、原告が既に別居中の被告に対し、被告の性格の偏り、長男に対する虐待等を理由として離婚を求め、併せて、財産分与の清算金の支払いも求めた事案である。被告は、別居の原因は原告の自己中心的な性格によるものであるとして、原告主張の離婚理由は争うものの、離婚自体は争わず、逆に原告に対し、財産分与の清算金の支払いを求めている。
証拠等によれば次の事実が認められる(なお、認定に使用した証拠等については、各項の末尾に括弧書で表示した)。
1 原告と被告は、昭和四八年五月八日に婚姻した夫婦であり、両名の間に長男太郎(昭和四九年九月二六日生)がいる。(弁論の全趣旨)
2 原告と被告は、平成元年頃から夫婦の折り合いが悪くなり、平成七年五月三日、被告は、当時家族で住んでいた別紙財産目録一記載の不動産(以下「本件マンション」という)を出て、単身で実家に身を寄せ、以後現在に至るまで、原告と被告は別居の状態にある。(甲二三、甲四一、乙八の一、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
3 原告は、被告との婚姻当時高円寺にマンションを所有していたが、昭和五一年に一一五〇万円で売却し、その売却代金に当時手もとにあった○○証券の株式(そのうち三二〇〇株は被告が結婚の際に持参し、名義を原告に変更していた。)の売却分と被告の実父乙川二夫から借り入れた五三一万円余りを合わせ、一八〇〇万円で門前仲町のマンションを購入した。その後、原告は門前仲町のマンションを五〇〇〇万円で売却して、その売却代金及び後記の○○銀行深川支店からの借入れにより、五七〇〇万円で本件マンションを取得した。(甲四一、乙八の一、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
4 原告は、別紙債務目録記載のとおり、平成元年一〇月二六日、○○銀行深川支店から二一五〇万円と六二〇万円の二口の借入をし、これを本件マンションの購入代金の支払いのほか、別紙財産目録二記載のホテルの一室の持分(以下「○○ホテル三〇三号室」という)、別紙財産目録三記載のホテルの一室の持分(以下「△△ホテル六〇八号室」という)及び別紙財産目録四記載のゴルフ会員権二口の購入にあてた。右債務の残高は、原告と被告の別居時である平成七年五月当時は、一九三八万七九九六円と五五五万九三八七円、平成一〇年一二月には、一五四〇万三二八四円と四二六万九七〇八円となっている。(甲一三、甲一四、甲三八、甲三九、原告本人)
5 原告は、昭和四四年三月に大学を卒業し、一四年余りビルの空調関係の会社で設計を担当し、昭和五八年三月に現在勤務しているA株式会社に入社した。同社に入社した当時の原告の収入は年間六〇〇万円程度であった。原告は、平成一七年九月二九日には定年退職の予定であるが、原告の定年退職時の予想される退職金額(但し、昇給分は未算定、勤続年数分のみ加算)は九二九万円となる。
一方被告は、原告との婚姻によりいったん退職したものの、まもなく子育てをしながら、売り子や訪問販売等のパート業務に従事し、別居に至るまで続けていた。この間、昭和五九年から昭和六二年にかけては、生命保険の外務員をしており、一時的にはかなりの高額の収入があった時期もあった。被告は、原告との別居後、勤務先を三度変え、現在はパートで働きながら、実父の看病もしている。(甲三七、乙一〇、乙一一、原告本人、被告本人)
6 以下の財産は、原告と被告が婚姻中に取得ないしは形成したもので、財産分与の対象とすることにつき当事者間で争いはなく、その名義あるいは使用状況と評価額は次のとおりである。(甲一ないし甲一一、甲一五、甲一六、甲一八、甲一九の一、二、甲二〇、弁論の全趣旨なお、各財産の評価額は第六回弁論準備手続における当事者双方の合意額に基づいて認定した。)
(一) 本件マンション
持分 原告 一〇分の七
被告 一〇分の三
現在、原告と長男太郎が居住
評価額 二六〇〇万円
(二) ○○ホテル三〇三号室
原告の持分 七分の二
評価額 三〇万円
(三) △△ホテル六〇八号室
原告の持分 一五分の三
評価額 三〇万円
(四) 別紙財産目録記載四のゴルフ会員権二口
いずれも原告名義
評価額 各三〇万円
(合計六〇万円)
(五) 別紙財産目録記載五の①ないし③の解約返礼金
①及び②は原告名義
但し、③については被告が返戻金を取得済み
評価額
合計二八九万〇六七六円
第三 当裁判所の判断
一 原告と被告は、夫婦の関係が破綻していることを争っておらず(第六回弁論準備手続調査参照)、前記のとおり、別居期間が四年以上に達していることからすると、原告と被告の夫婦関係は既に破綻しているものと認めるのが相当である。
次に財産分与に関しては、当事者双方は慰謝料的要素の考慮を求めていないし(なお、離婚理由に関する当事者双方の主張は、いずれも相手方の性格行動傾向を非難するものであり、原告及び被告本人の供述や弁論の全趣旨に照らしても、原、被告の一方のみに離婚の帰責事由があるとは認められない。)、扶養的要素についても、当事者双方とも現在稼働しており、従前の就労状況や現在の生活の実情等を考慮すると、扶養を要するまでの状況にあるとは認められないので、いずれの要素も考慮しないこととする。
そこで、本件においては、原、被告が婚姻期間中に形成した財産あるいは債務の清算という観点から財産分与の内容を判断することにする。そして、清算的財産分与の割合については、夫婦双方の財産形成に対する寄与の程度によるところ、特段の事情のない限り、寄与の程度は平等と解すべきである(原告、被告双方の主張もこのことを当然の前提としている。)。そうであるとすれば、本件の個別の争点は、①本件マンションの清算割合をどう考えるか、②原告名義の債務の負担をどう考えるか、③原告が将来取得する退職金の被告への財産分与が認められるか、④既に解約済みの被告名義の預金三〇〇万円のほか、被告名義あるいは原告名義の預金の存在を清算的財産分与に当たり考慮すべきか、といった点である。以下順次検討する。
二 本件マンションの清算割合について
前記認定の事実によれば、本件マンション購入に至るまで、原告は二回にわたってマンションを買い替えているところ、最初の高円寺のマンションの購入資金ついては、原告は、結婚前に手持資金で購入したかのごとく述べる(原告本人調書一二頁)が、右部分は被告本人の供述(被告本人調書一二頁)と対比すると採用できず、一方で被告も頭金は自分が結婚前から持っていた投資信託を売却して充当したと述べているものの、ほかに確たる証拠も存しないことからすると、高円寺のマンション購入に当たっての原告と被告の寄与割合は平等と推認するのが相当である。そして、その後の門前仲町のマンションを一八〇〇万円で購入するに当たっては、右高円寺のマンションの売却代金一一五〇万円のほかは、もともと被告の固有財産であった○○証券株式会社の株式と被告の実父からの借入(なお、右借入については、既に現在まで二〇年以上経過しており、その間一切の支払いはなされておらず、借用証も作成していないというのであるから、これを実父から娘である被告に対する贈与と認める。)がこれに充てられたというのであるから、門前仲町のマンションの購入に当たっての原告の寄与の程度は、原告の負担分が高円寺のマンションの半額程度(五七五万円)であることからすると、おおむね三分の一程度の割合と認めるのが相当である。そして本件マンションを五七〇〇万円で購入するに当たってもその大半が門前仲町のマンションの売却代金(五〇〇〇万円)が充てられたというのであるから、不足分に○○銀行深川支店からの借入が充てられたことを考慮しても、本件マンション購入に当たっての原告の寄与割合は、せいぜい四割程度と認めるのが相当である。そうであるとすれば、本件マンションの清算に当たっては、原告にその四割程度、被告に六割程度を取得させるのが相当である。
三 原告名義の債務の負担について
前記認定のとおり、原告は、平成元年○○銀行深川支店から二一五〇万円と六二〇万円の二口の借入をしているところ、被告は右債務については、被告の負担割合は三割程度でも多すぎると主張するのに対し、原告は債務の負担割合についても平等とすべきであると主張するので検討する。
思うに、債務についても夫婦共同生活の中で生じたものについては、財産分与に当たりその債務発生に対する寄与の程度(受けた利益の程度)に応じてこれを負担させることができるというべきであり、その負担割合については、財産形成に対する寄与の場合と同様、特段の事情のない限り、平等と解すべきである。そして、右借入金は、本件マンションの購入代金の支払いのほか、○○ホテル三〇三号室、△△ホテル六〇八号室及びゴルフ会員権の購入資金として充てられたというのであり、これらの財産の購入に当たっては、原告が主導的役割を果たしたことは窺えるが、原、被告双方の供述及び弁論の全趣旨によれば、これらは夫婦共同生活における節税あるいは利殖の目的によるものと推認でき、右ホテル及びゴルフ会員権の分割に当たって、後記のとおり、原、被告双方が平等に取得することを合意しているといった事情も考慮すると、必ずしもその負担割合を動かすほどの特段の事情までは認められない。
そうであるとすれば、被告は、右債務残額につき、平成一〇年一二月当時の債務残額一五四〇万三二八四円と四二六万九七〇八円の二口の半分(九八三万六四九六円)を負担すべきである。なお、右の負担すべき債務額の算出の基準時については、別居時とする解釈もありうるが、一方で本件マンションの評価の基準時が第六回弁論準備手続期日(平成一〇年一二月一五日)であること、本件においては、別居後は専ら原告が本件マンションを使用し、被告は実家での寄宿生活を余儀なくされていることも考慮して、本件口頭弁論終結時に近い平成一〇年一二月を基準時としたものである。
四 将来の退職金の財産分与について
前記認定のとおり、原告は、現在A株式会社に勤務しているが、平成一七年九月二九日には定年退職の予定であると認められるところ、被告は、原告が現在勤務中の会社から将来退職の際に取得する退職金についても、清算的財産分与の対象とすべきであると主張する。これに対し、原告は、将来の退職金については、近い将来(六か月からせいぜい二年以内)に受領しうる蓋然性が高い場合に、支給を条件として分与の対象とすることができると解すべきで、原告の場合は、退職ははるか先のことで、その間に経済情勢の変化、会社存続の可否、給与体系の変化、経営基盤の変遷といった不確定な事態が起こる可能性も高く、しかも原告の事情による勤務不能ということもありうるので、財産分与の対象とはなりえないと主張するので検討する。
思うに、いわゆる退職金には賃金の後払いとしての性格があることは否定できず、夫が取得する退職金には妻が夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであって、退職金自体が清算的財産分与の対象となることは明かというべきである。問題は将来受け取るべき退職金が清算の対象となるか否かであるが、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻期間に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直したうえ、清算の対象とすることができると解すべきである。
これを本件についてみると、原告は昭和五八年三月に現在の勤務先に入社し平成一七年九月に定年退職予定であるところ、前記認定の事実によっても、右入社当初から別居に至った平成七年五月までは、原告と被告の夫婦としての婚姻生活が継続していたと認めるべきである(なお、原告は既に平成元年ころから家庭内別居の状態にあったかのように述べるが、被告の供述及び弁論の全趣旨によれば、夫婦関係自体は悪化していたとはいえ、別居時までは、被告なりに家庭内における妻としての役割を果していたと認められる。)。また、原告は平成一一年二月時点で退職した場合でも、すでに六九九万円の退職金を受け取れるとされているし(乙一〇、乙一一)、原告の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告が現在の勤務先の会社に六年後の定年時まで勤務し、退職金の支給を受けるであろう蓋然性は十分に認められる。そうであるとすれば、原告としては、退職時までの勤務期間総数二七一か月(昭和五八年三月から平成一七年九月まで)のうちの実質的婚姻期間一四七か月(昭和五八年三月から平成七年五月)に対応する退職金につき、中間利息(法定利率五パーセント)を複利計算で控除して現在の額に引き直し、その五割に相当する額を被告に分与すべきである。
その額は、次の計算式のとおり、一八八万円と認められる。
929万円×271か月分の147か月×0.74621540(六年のライプニッツ係数)×0.5(清算割合)=188万円
なお、原告の主張するとおり、六年後の退職ということを考えると、不確定な要素を全く否定することはできないので、右退職金の現在額の算出に当たっては、現行市中金利からすると極めて高率の年五パーセントの中間利息を複利計算で控除しているし、九二九万円という退職金の額も原告の今後の昇給分を考慮しておらず、できるだけ控え目な額を算出したものである。
また、原告は、東京家裁での調停の段階で、原、被告間で、原告の退職金については、財産分与の対象としないとする合意が成立したと主張するが、被告はこれを争っており、そのような事実を認めるに足る証拠もない。
五 原、被告の預金等の清算について
被告は、原告には、その手取収入と実際の支出に照らすと、二八二九万円を下らない預金が存するはずであると主張するが、平成七年五月三日時点での原告の○○銀行深川支店の残高証明書(甲二二)によれば、一七万円余りの預金が存することは認められるものの、他に現在原告の預金が存することを認めるに足る証拠はない。
一方、被告についても、原告は、その収入状況に照らすと八五〇万円程度の預金が存するはずであると主張するが、○○銀行深川支店の残高証明書(甲五六)によれば、平成一〇年一二月七日時点で、普通預金、定期預金併せて八一万円余りの被告名義の預金が存在することが認められるものの、他に現在被告の預金が存することを認めるに足る証拠はない。なお、被告名義の○○銀行深川支店の定期預金三〇〇万円が平成六年一二月一九日に被告により解約されていることが認められる(甲五五)ところ、被告は、右定期預金は被告の実母のものであり、夫婦共有財産ではないと述べており、その真偽は必ずしも明かではないが、既に解約済であることは明かであり、清算の対象として考慮する余地はない。
なお、原告は、東京家裁での調停の段階で、原、被告間で、原、被告名義の預金については、各自がそのまま保有することとし、財産分与の対象としないとする合意が成立したと主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。
また、原、被告間では、婚姻当初被告が持参した○○証券株式会社の株式三〇〇〇株のその後の帰趨が争いとなっているが、現在これが存在すると認めるに足る証拠はなく、既に認定した門前仲町のマンションの購入代金の一部に充てられた限度で考慮するものとする。
以上の次第で、原、被告の預金等については、別紙財産目録六記載の原告名義の一七万円余りと被告名義の八一万円余りの預金についてのみ清算の対象として考慮することとする(なお、被告名義の預金については、残高確認の時期が別居後であることは明かであるが、被告本人の述べるところによれば、別居後の被告の収入は極めて低額で預金等の余地はなかったものと推認できるから、残高五一七円の普通預金は除き、その余は同居期間中に形成されたものと認めることとする。)。
なお、東京家庭裁判所の調停により、原告は被告に対し、平成一〇年四月以降一か月七万円の婚姻費用の支払義務を負っているところ(乙一三)、その一部を未だ支払っていないことが認められるが、被告はその回収は別途調停調書に基いて行うと述べているので、右未払分は本件財産分与に当たっては考慮しないものとする(第五回口頭弁論調書参照)。
六 原、被告双方の清算額の算出について
以上認定したところによれば、原、被告間で清算すべき財産は別紙財産目録記載のとおりであると認められるところ、これまでに認定した各財産の形成の経緯、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、これらの財産の清算に当たっては、同目録一記載の本件マンションは原告四、被告六の割合で清算し、同目録二ないし六記載の財産は、原告と被告が等分で清算し、そのうえで、同目録七記載の退職金の清算金は被告が原告に別途請求させるのが相当というべきである。そうであるとすれば、同目録一ないし六記載の財産に関し、原告の取得すべき清算額は、一二九三万九六一〇円、被告の取得すべき清算額は一八一三万九六一〇円となる。そして、同じく、債務についても、前記三で認定したとおり、その発生とその後の返済の経緯、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原、被告双方に平等に負担させるのが相当であるから、右清算額から各人の債務額九八三万六四九六円をそれぞれ控除すると、同目録一ないし六記載の財産に関し、原、被告それぞれが実際に取得すべき清算額は、計算上は、原告が三一〇万三一一四円、被告が八三〇万三一一四円となる。
ところが、実際の財産の分与(清算)に当たっては、本件マンションは、原告と長男が居住しており、しかも原告を債務者とする○○信用保証株式会社の債権額あるいは極度額合計三八〇〇万円余りの(根)抵当権が設定されていること(甲一)などを考慮すると、原告に分与するのが相当である。また、別紙財産目録二ないし四記載の財産については、原、被告双方の合意に従い(なお、原、被告の分与に関する合意につき第六回弁論準備手続調書参照)、○○ホテル三〇三号室及び○○カントリークラブ会員権は被告に、△△ホテル六〇八号室及び△△カントリークラブゴルフ会員権は原告に分与することとする。次に、同目録五記載の生命保険返戻金については、最終的に被告の取得額が不足することや原告が和解案としてではあるが被告への分与の提案をしていることも考慮して、その全てを被告に分与する。そして、同目録六記載の預金については、それぞれの名義人に分与し、さらに別紙債務目録記載の債務については全額を債務の名義人である原告に負担させるのが相当と解する。この結果、現実の取得額は、別紙取得財産一覧表のとおり、原告が七一〇万三一〇五円、被告が四三〇万三一二四円となる。
そうすると、別紙財産目録一ないし六記載の財産の清算に当たっては、右のような実際の財産の分与の方法を前提とすると、原告が被告に三九九万九〇〇〇円程度(七一〇万三一〇五円―三一〇万三一一四円=三九九万九〇〇〇円、但し、千円未満は切り捨て)の清算金を支払う必要があるということになる。
そして、原告はこれとは別枠で前記退職金の清算分一八八万円の支払義務も負うと解されるから、結局原告が被告に支払うべき清算金は、五八七万九〇〇〇円となる。
なお、実際の財産分与の方法としては、原告に対し清算金の支払を命ずることに代えて、本件マンションに被告の共有持分を設定することも考えられないではない。しかし、そのような分与方法では、今後さらに共有物分割の手続を経なければならないことや、前記のとおり本件マンションに原告を債務者とする抵当権が設定されていることを考慮すると、今後の清算手続が煩瑣になる可能性が高い。これに対し、原告は、第四回弁論準備手続期日において、本件マンションの任意売却について言及しており、その場合は、原告の債務額と対比しても相当の余剰が生ずると見ることができるし、原告の現在の職業、収入状況、現在受取可能な退職金の額等に照らすと、借入あるいは本件マンションの任意売却等によって、右の程度の額の清算金を支払うことは十分に可能というべきである。そうすると、右のような清算金の支払による分与の方法によることが相当というべきである。
そして、原告が平成一〇年四月一五日に成立した家事調停に基づく婚姻費用の支払を一部怠っていること(第五回口頭弁論調書参照)等を考慮し、右清算金の支払を担保するため、人事訴訟法一五条二項により、原告の取得する本件マンションに抵当権を設定し、その旨の登記手続を命じることとする。
よって、主文のとおり判決をする。
(裁判官西岡清一郎)
別紙<省略>